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登録日:2010年4月30日

流出している優秀な人材を確保

サブプライムローン問題に端を発した世界的な経済不況の中、倒産、早期退職、内定取り消しなど、雇用問題が深刻化しています。企業にとって人材は継続的な発展を支える大切な基盤です。 ベンチャービジネス論や中小企業論を担当している八戸大学ビジネス学部長の丹羽浩正教授は、新聞の取材に対し、「不況で有効求人倍率が低下し、働く場所を求める人々が増えている今こそ、優秀な人材を確保しやすい」と不況が「人財」確保に有利に働くと説明しています。


流出する「人財」

帝国データバンクが発表した「2010年度の雇用動向に関する企業の意識調査」 【表1】 (1万624社回答)によると、2010年度に正社員(新卒・中途入社)の採用を予定していない企業が全体の47.5%(5050社)と5割に迫っており、調査開始の2005年以降で最悪の結果となっています。 業界別では不動産が62.0%(170社)、卸売が55.7%(1862社)と5割を超え、正社員採用の厳しさが際立っています。非正社員(派遣社員、パート・アルバイトなど)の採用を予定していない企業も57.0%(6056社)と2年連続で6割近くにのぼり、依然として厳しい採用状況がうかがえます。 しかし、このピンチの状況は見方によっては、逆にチャンスととらえることができます。 好況時には大手企業などの見かけ上の人気企業に人が集まるため、新規企業やこれから伸びそうな実力企業は人材難に陥りがちです。企業の中にやりたい仕事がそれなりにあり、今後の成長も見込めるため、人気企業に就職した優秀な人材が転職する理由がないのです。 一方、不況時は人気企業が採用を控え始め、優秀な人材が就職先を見つけられない状況になります。部署の統廃合や予算不足による新規プロジェクトの停止なども起こり、優秀な人材が満足できる仕事環境ではなくなり、早期退職や転職という形での人材の流出も生じます。

正社員の採用を予定していない企業【表1】

流出を見据えて「勝ち組」へ

「不況下の勝ち組」と称されるグーグル社のチーフ・テクノロジー・アドボケートのマイケル・ジョーンズ氏は、雑誌の取材の中で、「多くの人々が解雇されているという現状は、能力ある新しい従業員を雇い入れるチャンスだともとらえることができる」と力説しています。 実際、米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズの破綻を受け、同社の日本法人リーマン・ブラザーズ証券が倒産した2008年9月16日の朝、多くの元リーマン社員のメールボックスに複数のヘッドハンティング会社から競合会社への転職を勧めるメールが届いたそうです。 優秀な人材へのアプローチは続き、元リーマン社員たちはバークレイズ・キャピタル証券やJPモルガン証券などにヘッドハントされていったようです。これらの採用企業は不況時とはいえ、流出している優秀な人材の確保が会社に利益をもたらすと考えて行動していると見られます。

中小企業でも、このような人材の流出を見据え、不況下でも採用を続けているところがあります。 構造物内の劣化部分などを壊さずに検査する「非破壊検査」を手掛ける日本工業試験所(大阪市)は、この不況を人材確保の「追い風」ととらえています。 非破壊検査は耐震強度偽装事件などで注目度が高まっていますが、「高卒以上で年齢が30歳前後まで、ある程度の理系の素養がある人」という条件に見合った人材は、これまで大手企業に根こそぎ持っていかれていたそうです。 2009年は、高・大卒など計4人の新入社員の確保に成功しました。 工場用機器を製造する共進電機(京都市)も、景気後退による受注減で2009年2月~7月期の売上高が前年同期の半分以下に落ち込んだものの、大手に流れていた優秀な人材を獲得するため新入社員の採用を継続しました。 好況時には確保しにくかった技術職志望の優秀な学生を選ぶことができたといい、来春卒業する大学生2人に内定を出したそうです。 人気漫画「エンゼルバンク」に登場するカリスマ転職エージェントのモデルで、リクルートエージェントのソーシャルエグゼクティブなどを務める海老原嗣生氏によると、1990年代前半の不況時にはセブン・イレブン、ローソン、ファミリーマートなどのコンビニチェーンやヤマダ、コジマなどの家電量販店が、1990年代後半の不況時にはソフトバンク、楽天、サイバーエージェントなどの中堅IT企業などが積極的に採用を行ったといいます。 海老原氏は「現在では、どの企業も一流企業。不況時に人を募集している企業は確実に伸びている」と分析しています。

流出を見据えて「勝ち組」へ

流出していた「人財」事例

トヨタ自動車の奥田碩元会長、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長、京セラの稲盛和夫会長ら著名な経営陣の多くが不況時に、それぞれ無名企業に就職したという共通点があるそうです。

例えば、トヨタ自動車の奥田元会長は不況時の1955年、トヨタ自動車に入社しています。

当時の人気就職先は製糖、紙・パルプ、石炭業界でした。奥田元会長は「トヨタはまだ名古屋の小さな自動車会社だったけど、不況期に元気がいい会社に入るといいことがある」と当時を振り返っているといいます。

この事例は、不況時に優秀な人材が流出していることを証明し、「不況期は『当たり』を見つけるチャンスだと言えるでしょう」(海老原氏)

流出していた「人財」事例
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